耐震診断及び耐震補強

正に憂国の時です。建築士の我々にとって、複雑な想いが致します。1981年(昭和56年)以降の建物は、新耐震基準の設計になっており、地震国日本の建築構造学は世界でも有数の高い水準にあります。内容を解り易く言えば「人を殺すな。」をテーマに、ある一定の基準以上の建物は建物の壊れ方まで考えています。その性能を保持させるべき基準を改ざんする事は、単なる建築基準法違反を超越したものと考えます。これは一部の問題で通常の建築士にまで不名誉が波及しない事を切に願っております。

 

バランスが大切です

ここで一言申し上げておきたいのが、良い構造設計というのは、断面が大きく、鉄筋がたくさんはいっているのが、いい設計というのではありません地震・暴風時に力がスムーズに流れるのがいい設計です。左~右へ、右~左へ、上~下へ。バランスのいい力の流れ方は、各部材が同じだけ抵抗をしてくれる事を意味します。単なる1ヵ所の部材を大きな断面にする事は逆に不利になる事もあります、そんな時は過剰設計と言ったりする事があります。力持ちの人程(抵抗力のある部材の意)、力を負担するので、偏った抵抗になり、耐え切れず破壊する時は弱い部材が破壊します。

隣り合う部材が1+1(ほぼ同様の抵抗力の場合)の場合2になったりしますが、1.5+0.5(部材に差異がある場合)の場合は必ず2の抵抗力に到達しません。ゆえに、均等にバランス良く、抵抗する部材の大きさを決定する事がとても良いのですもちろん今回の事件は論外ですが。そこに構造設計者の能力の違いが出てくると思います。はっきりいって能力の差異は生じると思います。どの世界でも大小ある事だと思います。しかし、今回は改ざん詐称な訳ですから、それ以外の問題です。

しかし、今回の改ざん事件は社会問題になりました。今回良くも悪くも、世間に建築構造の事を知って頂く、いい機会であると考えます。

 

建築構造に優劣はありません

建物は木造(W造)、鉄骨造(S造)、鉄筋コンクリート造(RC造)、鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)とあります。どれが「優」か、どれが「劣」とかではありません。わかり易い例を挙げると、昔、学校の校舎は殆ど、木造でできていました。これは鉄筋コンクリート造が、まだ普及していなかった為ですが、今、木の特質を活かして、木造で校舎を造ったりすると、コストが非常に高くなります。スパンの大きいものは材料の特質を活かした、鉄筋コンクリート造、鉄骨造がとても有利であるなど、適材適所という事です。

一応、建築構造の考え方を簡単に申し上げたつもりですが、別の言い方で「耐震構造」という言葉が波及してます。他に「免震構造」とか「制震構造」とかいう言葉もお聞きた事があると思います。これもどれが「優」で、どれが「劣」かではありません。

「免震構造」は、地震の揺れを基礎から上部構造に伝えにくい構造の事です。現段階では費用がかかるかもしれませんが、ある程度の規模以上になるとスケールメリットが出てコストが高くならず、「免震構造」を採用できる事が可能になったりします。

地上60m以上の建物を建築基準法で超高層建物と呼んでいます。「制震構造」はこの超高層建物に採用されます。字の如く震を制御するという意です。災害時、外力をコンピューター制御に依り察知し、建物の重心をその外力に適応させて災害を切り抜けるというものです。

 

構造計算書をチェックしてみませんか?

現行の建築基準法は中地震(気象庁震度階の震度5強程度)と大地震(気象庁震度階の震度6強~7程度)に分けて必要な耐震性能を定めています。中地震に対して要求される耐震性能は建物に破壊を生じさせない事です。また大地震に対して要求される耐震性能は、建物に部分的な破壊が生じても建物を倒壊させないという事です。

前述もしましたが、建物の倒壊から人命を保護する事を大目的としています。一部の人の行動が大変な社会問題を引き起こしていますが、当たり前の設計をして当たり前の施工をしておれば、当たり前の安全と安心が得られます

もし、不安があれば、構造計算書をチェックする事も可能です。期間は2週間~4週間、費用は1住戸当たり1万円位が目安になると思います。もちろん建物の形状、難易度に依り、差異は出てきますのであくまでも目安です。

再発防止として、設計者と施工者とを分離し、責任の分担を明確にしたり、チェック機能の改善が必要不可欠になると思います。どちらにしても建築士の一人として、今回の事を氷山の一角と思いたくないです。今後も地震国日本を担える様に貢献していきたいと皆で共感し、実行していきたいものです。

 

当組合では、個々の建物の実情にあった提案を行っております。お困りのことがございましたら、お気軽にご相談ください。